日曜日。
3日間の営業日の最終日は、お昼頃から雨が降り出して、思いがけず大降りになった。
工房の中で雨の音を聞いていると落ち着くのだが(私は雨の音が好きなのだ)、こんな天気になってはお客さまの足も遠のくなぁと思いきや、ぽつりぽつりと来客があってパンが売れていき、夕方にはなんと、完売近くになった。
そんな中。
3時を過ぎた頃に、一息つこうとコーヒーを淹れ始めたところで、女性のお客さまが一人でいらした。ドリッパーにお湯を注いで最初の蒸らしをしていたところで来てしまったので、急いでカップにコーヒーを落としてから、お客さまがパンを選ぶのにつきあった。
そのお客さまは初めて来てくださった方だったのだけれど、パンを見てはどれにしようか悩みつつも、結構あれこれとかごに入れて、
これでお願いします
と、渡された。
さらに、渡されたパンを袋に詰めている間にもまだパンを見ていたので、
それ おすすめです
ブルーベリーとカシスとホワイトチョコが入っています
と、一言説明したら、
おいしそうですね
じゃあ これもお願いします
と、追加してくれたので、
このパンに使っているブルーベリーは
オイルコーティングされていないんですよ
なので
ブルーベリーの香りが生きているような気がします
と、そんな話をしつつ、袋詰めをしていたら、お客さまが思わず
ああ〜
いい匂い・・・
と、もう口にせずにはいられない、という感じでひと言つぶやいた。
パンの匂いのことだろうとその言葉を聞いていたら、続けて、
パン屋さんで コーヒーの匂いを嗅ぐなんて・・・
コーヒーとパンのいい匂いが・・・!!
ついさっき淹れていたコーヒーの香りが工房内に満ちて、目の前にコーヒーカップが置かれているかのような気分になったのだろうか。
私 コーヒーの匂いって
なぜか そそられますよね
これ 何なんだろうって思いますよね
お客さま そうですねぇ
私 帰ったら コーヒーを淹れて
このパンを食べよう!
って 思わずにはいられない
みたいな・・・?
お客さま もう
そう 思ってます!
私 あははははは!
お客さま うふふふふ
外はまだ、大粒の雨が降っている。でも、パン工房の中には、ぽっと、明るい光が差し込んだようだ。
お客さまが帰られた後、工房の中には雨音と共に一人の静寂が戻った。少し冷めたコーヒーにミルクを入れて、一口すする。
ふわぁ〜
おいしい・・・
こんなひと時が、パン屋の至福の時間。