風の通りすぎる場所@あおいベーカリー

自家製酵母のパン工房「風の通りすぎる場所@あおいベーカリー」に関するお知らせと、何気ない日常を綴っています。

世界の“片隅”で、愛をさけぶ

 雑事に紛れてなかなかできなかった玄関脇の草刈りを、ちょっとした時間のすきまにやっておこうかなぁと腰を上げて鎌を持って出陣したのは、先週の水曜日の夕方だった。
 とにかくどこもかしこも草が伸び放題で、どこから手をつければいいのかわからなくなっているのだけれど、うちの入口を入ってすぐに目に入る場所だし、その一角だけなら短い時間で終わるはずなのでやってしまおうという意気込みで草刈りの体制になったところ、上の方でぶんぶんという羽音がしているような・・・。

 ん?

と思って、家の外壁に沿って見上げた瞬間、

 うわっ!
 
思わず後ずさりした。
 なんと、頭上でスズメバチが忙しそうに巣を作っているではないか!
 春先からやけにスズメバチが家の外周を飛び回っていたので、どこかに巣を作っているのではないかと気をつけていたのだが、今の今まで、こんな大きな巣になるまで、全く気づかなかった。
 そういえば、洗面所に立った時に、何となく複数の羽音がするなぁと思って、洗面所近辺の外壁を見に行ったことがあったのだけれど、その時にはハチの巣はなかったので、気のせいだったのかな?とその後気に止めなくなったのだが、作られていたのは洗面所のある北面ではなく、西側だったのだ。
 巣は、作られている途中のようで、しきりにスズメバチが巣のまわりを回って壁土(?)を張りつけているように見える。
 
 これ・・・
 どうすればいいんだ・・・

どうするもこうするも、このままにしておくわけにはいかない、とにかく駆除しなければ。かといって、自分で駆除できる範囲ではない。
 結局のところ、インターネットでハチ駆除業者の紹介窓口を探して、翌木曜日に電話をして、金曜日に来てもらえることになった。

 金曜日の9時に来てくれたハチ駆除の業者の人が巣を見たところ、

 これ
 作っている途中じゃないですよ
 もう かなり大きな巣です

 そうですか・・・
 なんか
 一昨日 気づいたんですけど
 ものすごいスピードで大きくなっている気がする

そこから、ハチの生態についてのちょっとした説明をしてくれたので、生物系の話には目のない(いや、耳のない…か?)私は興味津々で聞いていたら、大きな巣の隣にできている三角フラスコをさかさまにしたような、とっくり型の小さな巣のようなものが、女王バチが最初に作る「作りかけの巣」なのであった。初めてそんな実物を見たことにひそかな感動を覚えつつ、話がはずんでしまったところ、

 立ち話していても 何なので
 防護服に着替えて
 始めます

ということになり、駆除に取り掛かってもらうことにして、私はパン工房の方で仕事を始めた。
 それから30分くらいして、作業を終えた業者さんが来て、巣を取ったあとの確認と、取り外したばかりの巣と死んでいるハチの撤去物を見せてくれた。

 3層かと思っていたら
 4層できていました
 写メとか 撮ります?

 いえ
 いいです

 ですよね〜

人間の都合のみで殺されてしまったスズメバチと、作られたばかりのハチの家。どちらも殺虫剤まみれになって、ゴミ袋の中に入れられている。
 
 戻り蜂といって
 巣を取ったあとに 外から戻ってくるハチもいるので
 それも できるだけ駆除したんですが
 全部は 駆除できなくて・・・
 1週間くらいは 戻り蜂が飛んでくるので
 このあたりには 近づかないようにしてください

それから、作業の完了と請求に関する書類を作成しながらも話が続き、ふと気になって、

 どうして ハチの仕事を始められたんですか?

と聞いたら、そこからまた話が盛り上がってしまった。ついには、

 だめだ!
 お客さんの話 面白くて
 長話になる!!

と言い残して、この後も2件ハチの駆除があるという業者さんは、次の仕事に出かけて行った。

 巣が無くなったあとに戻ってくるスズメバチは、頻繁に家の軒先を飛び回り、家の縁側まで入ってきた。
 家の中に入ってしまったスズメバチは、ホウキでそっとガラス戸の開いているところに誘導して外に出した。
 そんなハチを見て、ふと思った。

 仲間や家族や家を失くした戻り蜂は
 このあと どうやって 生きていくんだろう?

何気なく、ハチ駆除のポータルサイトに書いてあった「戻り蜂」についての記事を読んでみたら、巣を駆除したあとに戻ってきたハチは、巣が無くなっていることに混乱するが、1週間くらいで巣がないことを悟り、どこかへ飛んでいく・・・らしい。
 女王蜂を中心に成り立っていたスズメバチは、1匹になって、帰る家もなくなってしまったら、

 みなしごハッチになるのか・・・(わかる人は、昭和の人ですね)

まさか、よそのハチの巣で傭兵になるとか、残った働き蜂が集まって女王蜂を創りだして新たな巣を作る、なんてことはないのだろうなぁ。(ちなみに働き蜂は、ほとんどがメスなのだそう)
 戻り蜂は、帰る場所を失くしたまま、冬になって死を迎えるまでさまよい続けるのだろうか・・・。なんだかちょっと、切なくなった。