30年以上前のこと。
ある日ふと、バイクに乗りたくなり、免許を取って、日本のあちこちにツーリングに行っていた。
乗り始めて2年目くらいのゴールデンウィークに、紀伊半島に行った。
その時に泊まった宿で、夕食のデザートに、地元の柑橘類がごろんと1個、出てきた。
そのみかん、形がいびつで、手に取ってみると手触りがフカフカとしていて、何となくあまりおいしそうには思えなかった。
皮は手で簡単に剥けたのだけれど、出てきたのは小さめの実。
期待もせずに食べてみると、
おいしい~!
この味 初めて食べた!
最初の印象とは裏腹に、ジューシーで爽やか。
そのみかんの名前は、「三宝柑(さんぽうかん)」と教えてもらった。
翌日、宿を出て走っていると、道沿いで「三宝柑」と書いた札を立てて売っている直売所が、何ヶ所か目についた。
それも一山300円と、とびきり安い。
買って帰りたいなぁ
と思ったけれど、ツーリングの序盤だったし、バイクに積んでいる荷物自体がすでに満杯なので、残念ながら買うことはできず、私にとって三宝柑はその一度きりの、幻の柑橘類になってしまった。
その頃は東京に住んでいたので、どこかで売ってはいないかと探してみたこともあるのだけれど、三宝柑に巡り合うことはついになかった。
それから20年以上たったある日。今から10年くらい前になるだろうか。
真岡にあったF百貨店で、三宝柑を売っているのを見つけた。
あった~!
三宝柑!
思わず手に取ってみたけれど、どうもあまりおいしそうには見えない。知る人もいなかったのだろう。売れ残って、しなびかけているように見えたのだ。
それでも、ようやく出会った三宝柑。とにかく1個買って、食べてみた。けれど、
え?
違う・・・
三宝柑って
こんな味じゃなかった!
記憶の中の味とはまったく別で、ジューシーでもなく、ぱさついていた。あきらかに、長らく残っていたものに違いない。がっかり。
その時からまた10年近く経ったろうか。
紆余曲折ののちに真岡に戻ってきてから、梅干しを作ってみたくて、何となく選んで梅を頼んだ和歌山の農園から、春になる頃にメルマガが届いた。なんとそこには「三宝柑」と書いてあり、簡単な説明文も載っていた。
わー!三宝柑!
産地直送で買える!!
迷わず注文して、届いたそれを食べてみると、F百貨店で手にした三宝柑とは全く別物の、ツーリングの時に食べたあれと同じ、本物の三宝柑がそこにあった。
ジューシーで、身がプルンプルンしていて、爽やかなあの味。
そうそう
こんな味だった!
和歌山から届いたばかりのそれなんだから、当たり前だ。
食べていると、ツーリングしていた頃の、バイクから見た景色も思い浮かぶようだった。
それからこの時期に、2回くらい取り寄せたのだけれど、今年になってまた食べたくなって、3年ぶりくらいに注文したのが、今日届いた。
三宝柑は、和歌山特産。
18世紀の初めまでは門外不出の紀州公の宝果で、今でも和歌山でしか栽培されていない。
紀伊半島に春先、旅に行くことがあったら、是非、地元で食べてみてね。