風の通りすぎる場所@あおいベーカリー

自家製酵母のパン工房「風の通りすぎる場所@あおいベーカリー」に関するお知らせと、何気ない日常を綴っています。

地図と冒険

 私はナビが嫌いだ。
 なので、10年近く乗っている車にも、ナビはつけていない。ちなみにその車を買う時に、「ナビはつけますか?」と聞かれて、「いらないです。車に命令されるのが嫌だから」と答えたら、営業の人に笑われた。
 私にとっては、いち早く目的地に着くことよりも、迷子になったからこそ出会えた景色や、地図を片手に自分の力で目的地にたどり着けたときの達成感のほうが大切なのだ。


 で、今日書こうと思っている話はナビのことではなく、わかりづらいとお客さまに言われることの多い、このパン屋のある場所のこと。(脱線したまま終わらように、ここで話を切り替えておかないとね)
 最近、栃ナビ!で見てきました、という方や、知り合いの方から新しいパン屋が出来たという話を聞いて来てみました、と言って来てくださるお客さまが随分と増えた。開店から3か月くらいの間は、本当に近所の方が小さな看板を見て気になって・・・といって来てくれることがほとんどだったので、その中の方から口コミで伝わっていることを思うと、感謝の気持ちでいっぱいになる。
 一方で、twinや食べログ、栃ナビ!といったいわゆるマスメディアやインターネットの情報の大きさも、感じている。
 店のあるこの場所は細い路地に面したところで、市内の方であっても、いささかわかりにくい。看板は小さいし、駐車場もない。
 時々、

 ようやく 見つけました!

といって、店の中に入ってくるお客さまもいて、申し訳ないな〜と感じつつも、

 見つけるまでの楽しさも
 味わってもらえたら 嬉しいのですが・・・

と返してみると、

 探検みたいで 愉しかったです

とか、

 探して歩くの
 面白かったです

と言ってくださる方も結構いらっしゃって、こちらの方がちょっと感激してしまう。


 小学生の頃、通学路の途中に大谷石でできた2階建ての家(子供の目から見ると、お屋敷)があり、やや西洋風の門扉とともに不思議な雰囲気を醸し出していて、その家の前を通りながら、

 あの中は どうなっているんだろう?
 入って見たいなぁ〜

と、いつも思っていた。
 どんな家族が住んでいるのかさえも聞いたことがなく、もちろん、中に入って見るなどというチャンスが訪れることもなく、その家はいつの間にか壊されてしまい、今は敷地が当時の面影をかすかに残してあるだけだ。それでも敷地のそばを通ることがあるたびに、あの家に入って見たかったなぁと、忘れられない記憶になっている。
 考えてみれば、子供の頃好きだった物語は、宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』やスウィフトの『ガリバー旅行記』。年齢が上がってからは、『サハラに死す』やヘディンの『さまよえる湖』『楼蘭』、あるいは植村直巳さんのノンフィクションに惹かれた。
 大人になってから観て好きな映画は、『天空の城ラピュタ』や『夢みるように眠りたい』・・・どちらも、地図や誰かの話、あるいは矢文みたいなものを元に、何かを探しに旅に出る、みたいな物語だ。
 パン工房は、最初から母屋に隠れた庭先に作りたいと思っていた。大通りに面しているわけでもなく、通りから見える場所にもない、あえて家の裏側に作ったのは、そんな小さな冒険心をくすぐるような場所を、日常の中に作りたかったから。
 とはいえ、今現在この店は夏の雑草に包まれてしまい、間違っても美しい庭園が広がっているわけではなく、どちらかというと“つわものどもが夢の跡”的な荒涼とした風景になってしまっているのだが…(夢がなくてすみません。。。


 このブログの最初に出てくる「お店の案内」のページに載せてある地図は、画像としてハガキ大に印刷することができます。手描きの大ざっぱな地図なので、近所の人でないとこれだけではわかりづらいかもしれませんが、少し時間に余裕を持って、謎のパン屋を探す気分で来ていただけると幸いです。