風の通りすぎる場所@あおいベーカリー

自家製酵母のパン工房「風の通りすぎる場所@あおいベーカリー」に関するお知らせと、何気ない日常を綴っています。

はふはふ

 日に日に寒くなりますね〜。
 日暮れも早くなって、帰り道が淋しくなったり・・・。
 そんなところで思い出した、先週の出来事。

 日曜日の4時近く、日が落ちて気温が下がり始めた頃、何度も来てくれているお母さんと小学生の女の子の二人連れが。
 私が母屋でちょっと用事を済ませている間に来てくれていたらしく、しばし気づかぬまま工房に戻ったら、すでにかごにパンを選んで待っていたところだった。

 お待たせして すみません・・・

と、あわててカウンターに戻り、パンを袋に詰めようとしたら、女の子が、

 焼立てのパンは どれですか?

と聞いてきた。
 一瞬“?”と、質問の本意がわからないまま、

 ここにあるのは 今日焼いたものですけれど
 もう 冷めてしまっていますね・・・

と答えたら、お母さんの方が、

 帰りながら はふはふしたいんです

と、付け加えてくれた。なるほど。そういうことだったのね。
 それで、
 
 ああ 温めますよ

と言うと、お母さんと女の子が顔を見合わせて

 温めてくれるって
 どれがいい?

と、お母さん。

 えー
 どれでもいいんだけど・・・

と、女の子がパンを見ながらしばらく迷っていたので、

 バターロールとか お勧めです

と勧めてみたら、

 じゃあ バターロール

と、即決。
 パンを袋に詰めながらバターロールを温め、その間にもお母さんと女の子は、浮き球などが飾ってある棚を見ながら何かを話している。会計をしつつ、

 ガラス玉ですか?
 あれ 浮き球っていうみたいですよ

と話を振ってみたら、なんと、おじいちゃんが漁師をしていたそうで、おじいちゃんのまわりには浮き球があちこちに転がっていたのだと、お母さんが教えてくれた。
 
 ああ そうなんですか!
 どこで 漁師をなさっていたんですか?

と、何気なく聞いてみたら、いわきでしていたとのこと。思わず、

 じゃあ 今は・・・

と、震災や津波のことを心配したら、

 何も なくなってしまいました・・・

 みなさん 無事だったんですか?

 はい

 あぁ よかった〜

 みんな 無事で・・・
 無事だったから それだけでいいねって・・・

思いがけないところで震災のことが話題になってしまったけれど、無事でよかった。

 そうして、パンを入れた手下げ袋の方をお母さんに渡して、小さな紙袋に入れたバターロールの方を、

 はい はふはふ

と、女の子に手渡すと、2人して嬉しそうににっこり笑って、

 ありがとうございました

と、お母さんに続いて女の子がドアベルを鳴らしながら外に出た。

 そう言えば私も、音楽教室の帰りに、暗い夜道を母といっしょに月や星を見ながら歩いたなぁと、遠い昔の風景を思い出した。あの時はいつも、ちょうど向こうから来た焼き芋屋さんから焼き芋を買ったような気がする(笑)
 女の子は、バターロールをはふはふしながら、家までの道をお母さんと仲良く歩いたんだろうな。そんな光景を、大人になった時にふと、思い出すこともあるだろう。その時、自分の手にあったものが小さな一個のパンだったことも、思い出してくれるだろうか・・・