風の通りすぎる場所@あおいベーカリー

自家製酵母のパン工房「風の通りすぎる場所@あおいベーカリー」に関するお知らせと、何気ない日常を綴っています。

ギンヤンマの住む世界

 連日の猛暑で、パンを焼く工房の中は毎日のように40℃近くまで暑くなるのだが、諸事情により、当店ではエアコンを使っていない。
 おかげで、お客さまにはたいへんご不便をおかけしておりまして、申し訳ありません。
 
 なぜか、といいますと、もともと電気の使用量を増やしたくないと思っていたところに、東日本大震災の原発事故があった時に福島県に住んでいたことで、その思いをより強くした。(会津だったので地震の被害はほとんどなかったのだが、私が住んでいた町にも浜通りから避難してきた人たちが何組もいたりして、原発事故を生々しく感じた)
 とか、夏は暑くてあたりまえ。必要以上に冷やした場所に長くいると自律神経が働かなくなる。(とくに、パン屋の仕事をする日は睡眠時間が3時間くらいしか取れないので、その状態でクーラーの効いた部屋と外気温の温度差を行き来したら、完全に自律神経がダメになって体調不良から立ち直れなくなりそう)
 など、思うところがあってクーラーを使っていない。(その代わり、換気扇と扇風機は使っています)


 とはいえ、工房内40℃はあまりにも過酷なので、時折、工房のドアを開けて通気する。
 そうしたところ、今日は、ぶぶぶぶぶんという羽音と共に、何かが飛んで入ってきた。

 あれ?セミ?

と思ったが、鳴き声がするでもなく、どこかに留まるでもなく羽音が続いていて、セミではなさそうだ。
 それで、音のするあたりを目で追うと、それは大きなトンボだった。

 オニヤンマ?
 にしては ちょっと小さいし
 色が 黄色くないなぁ

とトンボを目で追うのだが、出口を探しつつ壁に突き当たっては方向を変えて飛び回るので、トンボの詳細がわからない。
 そのままではいつまでたっても外に出られなそうなくらいにめちゃくちゃに飛んでいたので、カーテンに留まったすきにそっと羽を掴み、足を指に止まらせてトンボを観察したら、

 君は
 なんて 美しいんだ・・・!

緑色の複眼がついた頭部に続く胸部の、エメラルドグリーンと浅黄色(もしくは、青みが強い青磁色?)がメタリックに輝いていて、何とも言えずに美しいのだ。
 こんな色のトンボを、今まで見たことがなかった。大きさもオニヤンマよりも小ぶりで、優雅に見える。
 あとで名前を調べるために、色を記憶すべくしばらくトンボを見つめてから、ゆっくりと羽を掴んでいた手を離すと、トンボはさぁ~っと空に向かって飛び立っていった。


 仕事が終わってからトンボの名前を調べてみたところ、「ギンヤンマ」のようだ。
 ちなみにどうやって調べたかというと、最初に「トンボ」「エメラルドグリーン」で調べたところ、それらしいものが見つからず、大きさと形の感じが○○ヤンマっぽかったので、「とんぼ」「ヤンマ」「緑色」で検索しなおして見つけた。
 工房の中で飛び回ってばかりだったので、写真を取れなかったのが残念。
 ちなみに美しい緑色をしているのはオスで、メスは黄色っぽい色をしているらしい。
 そう言えば子供の頃、「ギンヤンマ」というトンボの名前を覚えたような気がしてきた。

 今回のギンヤンマや、数年前に初めてこの庭で見たルリボシカミキリやアオスジアゲハ、あるいは10年に一度くらい遭遇するナナフシとか、図鑑で見て実物を見てみたいと思っていた虫が、実は我が家の庭にも生息していたりするようだ。
 思いがけない美しい昆虫に遭遇したり、はたまたこんなにたくさん足があってコケルことはないのだろうか?と思うような見た目から避けたい虫に会ってしまったり・・・。
 見えていないだけで、実はものすごくたくさんの生き物が身の回りでは生きていて、それが食物連鎖を作り、ヒトも生かされているのだろう。
 パンも、目には見えない酵母という生き物が、小麦粉の中で発酵という作用を施して作られている。
 虫も雑草も菌もいない世界では、人間も生きてはいけない。そのことを忘れてはならない。
 ・・・とあらためて考えたりした、ギンヤンマとの接近遭遇だった。