風の通りすぎる場所@あおいベーカリー

自家製酵母のパン工房「風の通りすぎる場所@あおいベーカリー」に関するお知らせと、何気ない日常を綴っています。

ムーンシャイン

 私の妹は、アメリカ人と結婚してアメリカに住んでいる。
 最初に引越したのは、ハワイのカウアイ島だった。
 日本にいる時にデザイナーをしていたので、アメリカに引越してからもデザインの仕事があればやりたいと思っていたところ、ちょっとしたきっかけでコーヒー園のオーナーにコーヒー豆のパッケージのデザインを頼まれることになり、それがとても気に入られて、カウアイ島にいる間はもちろん、数年後にハワイからアメリカ本土に引越してからも仕事を依頼される関係が続いている。
 基本的にはデザイン関係のことを頼まれるわけだが、時にはオーナーが書いた短い商品説明(パッケージに入れる紹介文)を英語から日本語に翻訳するというような仕事もあり、そういう時には必ず、自分で訳した日本語が自然か?のチェックを私にメールで聞いてくるのだった。
 余談だが、私は文章を書くことが結構好きな方なので、それを知っている妹が、以前、勤めていた会社の先輩が結婚することになって同僚一同からのお祝いの言葉を自分が書くことになったのだけれど、考えてくれない?という、無謀とも思われるお願いをしてきたことがある。(ちなみに私は、その先輩とは一切面識がなかった)確かその時は、先輩がどんな人かという情報をいくつか聞き出し、お祝い文の文例を私が書いて、それを妹が推敲して、それをまた私がチェックしてお祝い文が完成した・・・ような気がする。
 それはともかく、カウアイ島のコーヒー園のコーヒー豆やコーヒー豆入りのチョコレートなど、今までいくつかの日本語訳の添削をしたのだけれど、ここ数年はそういう依頼のメールがなかったため、

 最近は 新商品を作っていないのかなぁ?
 たまに そういう添削のメールが来ると
 楽しめるんだけどなぁ・・・

と、なんとなく思っていた矢先、妹から、

 こんにちは。
 日本語に訳したものがあるのですが、自然かどうか読んでもらえませんか? 

というメールが来た!今回はなんと、バーボンの紹介文だった。
 カウアイ島の農園はコーヒーから始まっているのだけれど、それに続いて今度は、自家栽培のトウモロコシを原料に、蒸留所でオリジナルのバーボンを醸造してもらったようなのだ。
 バーボンがアメリカで作られたウィスキーで、「バーボン」を名乗るための条件が設定されている、ということは何となく知っていたのだけれど、原料や作り方のことを正確に知っているわけではないので、日本語訳をチェックする前にそのあたりを調べた。この時、自家製酵母でパンを作るために、「発酵」についてあれこれ読んだり検索したりして知識が増えていたことが役に立って、書いてあることの意味が何となく想像できて理解が深まった。
 それを元に、大胆に意訳したものを妹に返信して、推敲を重ねるべく1週間ほどやりとりしたのち、今度は「ムーンシャイン」というお酒の日本語訳のチェックの依頼が来た。
 ムーンシャイン?名前自体聞いたことがない。どんなお酒なんだろうと、またもや検索をかけるために、「ムーンシャイン」「酒」「作り方」と入れてEnterを押してみたら・・・

 密造酒

というタイトルばかりが検索結果に並んで出てきて、

 ?????!!!
 ええ~!?

腰を抜かしそうにびっくりした。
 まさか、密造酒を作って販売するわけではあるまい。
 とりあえず、出てきた項目を読んでみておおよそわかったことは、


 原料は主にトウモロコシ。
 蒸溜して作る。
 禁酒法時代に、密造されていたことがある。
 密造が発覚しないように月明かりの下で作られたため、「ムーンシャイン」と呼ばれるようになった。
 
どうも、禁酒法時代の頃のレシピを再現して作ったものが「密造風ウイスキー」「コーンウィスキー」という呼ばれ方をしている、ということのようだ。
 つまり、「ムーンシャイン」はアメリカで俗語として使われているもので、日本ではそういう名称で売られているお酒があるわけではなく、そのためになじみの薄い呼び名だったのだ。
 原文に、木製のものに一度も触れないので穀類の香りだけがする、というような表記があったため、樽詰めして寝かせないのだろうか?という疑問が残ったのだが、一応、これらのことを踏まえて意訳したものを送ったところ、妹が返信に、


 ムーンシャインは熟成させないお酒です。ムーンシャインには、悪と秘密(謎)めいた言葉の響きがあります


と書いてきた。
 あらためてコーンウィスキーの作り方を読んでみたら、樽詰めしない(熟成しない)作り方と樽詰めして熟成させる作り方があるようだ。検索した時、禁酒法時代に密造酒だと発覚しないように当時安かったシェリー酒の樽に詰めて運んだ、ということが書かれていたものがあったので、それもまた、コーンウィスキーの魅力の一つになっているのだろう。
 そんな歴史を知ったあとで妹が書いてきた、「ムーンシャインには、悪と秘密(謎)めいた言葉の響きがあります」という一文を読むと、ぞくぞくしてきた。
 何十年も前に映画館で「once upon a time in America」や「アンタッチャブル」を観た時には、時代背景がわからなかったために今一つ話の内容が掴みきれなかったのだけれど、もう一度観てみたくなった。そのなかには、「ムーンシャイン」という言葉も出てくるのかも?


 夜になり、廊下が妙に明るいので外を見たら、久しぶりに月が明るく輝いていた。

 そう言えば 今夜は
 中秋の名月だった!

と、あらためて輝く月を見上げた。