風の通りすぎる場所@あおいベーカリー

自家製酵母のパン工房「風の通りすぎる場所@あおいベーカリー」に関するお知らせと、何気ない日常を綴っています。

真岡鐡道小さな旅

 実は今年の3月に追突事故を起こされ、16年乗り続けていた愛車が廃車になってしまった。
 幸い怪我はなかったものの、相手保険会社J損保の対応が最低だったりなんだりで、未だに交渉が成立しないまま代車も返却してしまったために、6月末以降、車のない生活が続いている。
 日常の買い物は徒歩で済ませられるのでなんとかなっているのだが、直売所に新鮮な野菜を買いに行くとか、車がないと交通の便が悪いホームセンターにガーデニング用品を買いに行くとかいうことができなくなり、やはり車がないと不便なのだ。
 とはいえ、1個200円くらいのパンを売って生活を成り立たせようという弱小パン屋ゆえに、ぽんっと一括払いで車を買うほどの蓄えや収入があるわけでもなく、どうしたら車を買えるだろうか?ということをぐるぐる考えたまま今に至っている。
 というより、7~8月は猛暑でそんなことを考える気力もなく車なしの生活を受け入れるままになり、9月半ばくらいになってようやく本気で考え出した。


 唯一、車が無くなってよかったことは、歩くようになったこと。
 今までだったら、車で配達に行く帰りに買い物をして・・・など、時間の節約も兼ねて車に頼ることが多かったけれど、その車がないのだから歩くしかない。その分、これまでの運動不足が少しは解消されたのがよいところといえばよいところ。
 なのだが、飲食店関係者の任務として年に2回検便を受ける義務があるのだけれど、そのうちの第1回目が8月の上旬にあって、そのための容器をもらいに保健所まで、仕事明けの30℃超の猛暑の月曜日に片道25分近く歩くはめになった。行ったら当然、再び25分歩いて帰ってくるわけだが、立ちっぱなしの仕事明け+4日分の睡眠不足+猛暑+徒歩という4重苦に、途中でもう歩くことを投げ出したくなった。子供みたいに道に座り込んで

 もう 歩けない~!
 おんぶ!!

と言いたくなるくらいに、家にたどり着く前にぐったりと疲れ果てた。
 容器をもらいに行った2日後には、検体を出しにまたもや保健所まで。もちろん、徒歩で。月曜日の件で懲りたので、この日は帰り道で石橋駅までのバスに乗って石橋まで行き、そこから宇都宮線で小山まで行って、アニメ映画『海獣の子供』を観るという予定を組んだ。
 映画を見終ったら再び電車で石橋駅まで戻って、バスで真岡に帰るわけだが、この時はバスの出発時刻との連携のない時間帯だったため、夕方6時頃にもかかわらず30℃超の蒸し暑い待合室で50分、バスが来るまで待つ、という事態に。
 駅前にしゃれたカフェがあるわけでもなく、駅舎はオープンになっていて駅ビルなどのクーラーが効いている場所もないので、結局この日もぐったりと疲れ切って帰ってきた。
 別の日には、市役所に用事があって、ぎりぎり雨が降らないうちに帰れるかなぁという楽観的な予測のもとに出かけたら、用事が済んで市役所を出たとたんに雨が降り出し、まもなくどしゃぶりになって、かと言って道すがらに雨宿りできるようなところもなかったため、そのまま豪雨の中を歩き続けてぱんつまでびしょ濡れになって家に着いた、ということもあった。
 それじゃなくても、この7月8月、さらには9月になっても蒸し暑い日が続く中、仕事柄慢性寝不足を抱えて老体に鞭打ちすべてを徒歩で済ます、というのは拷問に近い。


 そんなこんなのことがありつつも、本当に車は必要か?ということも考えた。
 実際車は金食い虫。税金やら車検代やら細々した部品の交換やらガソリン代やら、何かとお金がかかる。必要な時にレンタカーを借りればいいのでは?とレンタカー代はいくらかかるのか、を見てみると、安価で借りられるレンタカーもあれど、その際に保険にも入ったりすると、それなりの額になる。たとえば包装用品の安い店で買い物をするのに車があるといいな~という日に借りるとしても、車を借りる代金を考えたら安くならなくなるし、予約してレンタカー屋まで歩いてそこで契約書類を書いて、とかいうことをしないといけないことを考えると、

 めんどくさいな~
 それに 日常使いのために借りるには 高い!

という結論に達した。
 たま~に東京に行くことがあった時にも、石橋駅までの往復にはやはり車が必要になってくる。(バスは夜7時で終わっちゃうからね)
 パンを納品するにも車がいるし。
 それに、野菜を買いに行くための直売所や道の駅までのプチ遠出も、私にとってはいい気分転換なのだ。
 とまあ、紆余曲折悩んだ末に、

 やっぱり 車は 必要だ!
 買おう!!

という決心をした。
 ちなみに、どの車を買うかは5月に一度検討したことがあって、2車種ほど見積もりも出してもらったのだけれど、支払いの面で決められなかったので保留になった。ただ、車種についてはこれまでの間にあれこれ迷った末に、これにしよう!という決心がついていた。


 と、前置きがやたらと長くなりましたが、そういう経緯があり、今日はS社のディーラーに、あらためて見積もりを出してもらいに出かけたのです。
 S社ディーラーは旧二宮町にあって、歩くには遠いため、真岡鐡道で。
 一駅だけだが、久しぶりに真岡鐡道に乗った。
 車窓から見える景色は、子供の頃見た景色とあまり変わらないような、片田舎ののどかな風景。
 駅からディーラーまでは歩いて5分くらいなので、散歩気分。
 見積もりを出してくれた担当者もとても感じがよくて、支払いの見通しが立つかどうか再検討したうえで決めることになりそうだ。

 帰りの列車は、20分後に到着だった。
 無人駅の木製のベンチに座っていると、心地よい風が通り抜けた。線路の向こう側には畑が広がり、静かな時間が流れている。
 線路は単線の、ジーゼル車。これも、子供の頃から変わっていない。
 ジーセル車なので、線路の上の電線も送電のための鉄塔もない。そこも、いい。


 この雰囲気 いいなぁ~
 のどかな景色が心地いい・・・


 車が無くなって、3か月。徒歩だけの生活となり、夏の間は草刈りに追われ、休みの日の気分転換にちょっと遠出ということもできなくなって、少し鬱屈した気分になっていたのだけれど、駅で列車を待っている間に心の中が笑顔で満たされた。

 騒がしい列車到着の案内放送もなく、小さなホームにジーゼルカー特有の音がして、2両編成の列車が入ってきたのが到着の合図だった。
 待合室から改札を通り抜けたらそのままホームに出て列車に乗りこむ。
 車内で整理券を取り、座席に座るとまもなく出発。
 また、じーーーーーっというジーゼルカー特有の音。
 ごとんごとんと、のんびりした速度で走り出す。


 ここに帰ってきて よかった・・・


 ふと、そんな気持ちが湧きあがった。
 真岡鐡道で、時間を巻き戻す、小さな旅をした。