先日、お客さまから、パン作り教室でベーグルを作った、という話を聞いて、私がいちばん最初にパンを作ったときのエピソードを思い出し話したところ、すっかり盛り上がったので、このブログでも紹介いたしましょう。
それは、自家製酵母でパンを作ってパン屋になる!といきなり決心した時から遡ること20年ほど前、私が20代半ばの頃。
パン好きだった私が、ある日、パンってどうやって作るんだろう?とふと興味がわき、手持ちの本の1ページに食パンとバターロールの作り方が載っていたのを参考にして、パンを作ってみることにした時のこと。
使ったのは、市販のドライイースト。
寝る前に粉に砂糖と塩と戻したドライイースト、さらにバターも混ぜてこねたらビニール袋に入れて、それを冷蔵庫で一晩おいて一次発酵を待つ、という方法で作ることにした。
その頃は会社勤めをしていたので、朝までに一次発酵したものを、そのまま帰ってくるまで冷蔵庫で保存して、帰宅してから二次発酵、焼成をすればゆっくり作ることができるだろうという見通しを立てたからだった。
こね方もよくわからないまま、とりあえず本にある分量で粉と水、その他の材料を混ぜ合わせて丸め、ビニール袋に入れて、さて、冷蔵庫に・・・と見ると、1Kのアパートに置いた一人用の小さな冷蔵庫には中身がパンパンに詰まっていて、パン生地を入れる隙間などない。それでも何とか入りそうな空間を作り、ちょっと力づくでパン生地を押し込んで、就寝した。
その翌朝。
目覚まし時計が鳴り、起きがけのぼや~っとした頭で台所の方を見ると、何やら薄ぼんやりとオレンジ色の光が・・・。
ん?
何の明かりだろう?
と、目を懲らしてみると、
あれ!?
冷蔵庫が開いている!
なんで??
さらによーく見てみると、冷蔵庫のドアがばーんと勢いよく開き、オレンジ色の光の中にごろん。と、思いっきり膨らんだパン生地が転がっているではないか!
おお~!
パン生地が・・・
イーストって ほんとに生きているんだ・・・!
という感動のあと、ごろん。と転がり出たパン生地の様子があまりにもおかしくて、一人で大笑いした。
東京に住んでいたその当時、満員電車に乗って通勤する朝は、気持ちのいい時間とは言いがたかった。
でも、その日の朝は、大笑いしたおかげで機嫌よく会社まで行けたような記憶がある。
最初にパンを作ったあの日の衝撃と感動は、今でも忘れられない。
イーストだったけれど、自家製酵母で作ったときと同じくらいのインパクトがあった。(ちなみに、自家製酵母でパンを初めて作ったときの話はこちら→
酵母の話 - 風の通りすぎる場所@あおいベーカリー)
あの日から、何十年経ったのだろう。
まさか自分がパン屋になろうとは思いもしなかったけれど、そして、パン屋を始めてから6年間パンを作り続けているけれど、仕事日の朝、保温器を開けてパン生地がふっくらと膨らんでいてくれると、今でも毎回感動を覚える。
さらに、生地に指を差して発酵具合を確かめるフィンガーテストが最適なところに来ていると、思わず笑顔になっている自分がいる。
ちなみに、パン教室でパン生地に指を入れてフィンガーテストをした瞬間、たいていの人が「気持ちいい~」「癒やされる~」と言葉を漏らし、うっとりとするのを何度も見たことがある。
パン生地には、どうも、人を癒やす力があるらしい。
小麦粉と酵母という小さな生き物のなせる技。
不思議だよね。