風の通りすぎる場所@あおいベーカリー

自家製酵母のパン工房「風の通りすぎる場所@あおいベーカリー」に関するお知らせと、何気ない日常を綴っています。

謎の菌事件 まとめ

 2021年の年末から2022年念頭にかけて起った、自家培養酵母でパンの元種が作れなくなった事件。
 それは、すべてのパンを自家培養の自然発酵種でパンを作っている当店にとって、パンデミック!と言いたくなるような出来事だった。
 パン屋になる!と決心した15年前から、自分が食べたいと思うようなパンは自家製酵母(自家培養の自然発酵種)でしか作れないと思い定め、パン屋をやるなら自家製酵母だけで作る、という自分軸をぶれることなくやり続けてきた。
 その長い年月の中で、特にパン作りを始めた頃には長い間、元種が作れなくなり、どうして作れなくなるのか?という原因と、その解決法を見つけることは終わることのない修行のようなものだった。
 パン屋を始めてからは、開店後2年目か3年目くらいの頃に1度だけ元種がダウンして1週間休んだことがあるのみで、幸いなことにそれ以降はずっと元種を繋ぎ続けることができていた。
 それが開店から8年目の今回、すぐには元種が回復しない状況に・・・!
 結局、復活できるまでには1ヶ月半ほどかかる事態になったのだが、その間に考えつく限りの原因と解決法を試した結果、わかったことがある。

 元種を作る前に、酵母を起こすために使うガラス瓶は雑菌が繁殖しないように煮沸消毒をしてから使うのだけれど、そこで得た酵母液は酵母が十分に増えているので、元種を作る時につかう容器は煮沸消毒をせずに使っても大丈夫、というのが基本となるため、多分どの本にも元種を作る容器も煮沸消毒をしてから使うとは書いていないと思う。(ちなみに私は、今までそのような記載をみたことがない)
 そして、実際に、元種を作る容器を煮沸消毒しなくても大方はちゃんと作れるのだが、何度やってみても上手くいかない、というときには、元種を使う容器を煮沸消毒してから作ってみると、すんなりと上手くいく可能性が高い、ということをここで明記しておきたい。
 こんなことをなぜ今まで気がつかなかったのか?というくらい、基本的なことなのだが、実に盲点だった。

 ちなみに、今回の謎の菌事件を解決するために最初にイメージしたのは、酵母の数をどうにかして増やす、ということ。
 微生物の世界では、数の上でいちばん多く繁殖した種類の菌がその世界(パンの元種となるものなら小麦粉の中でs.セルビシエという菌が。日本酒の元となるものなら蒸し米の中でオリゼーという菌が)の頂点に立ち、現象が発現する。
 パンを作るには、小麦粉の中に酵母(s.セルビシエ)を増やし、酵母が発酵(微生物が活発に活動)することでパンが膨らむ。 
 今回の菌事件では、その酵母が上手く増えなくなった原因は、どうやら強力な種類の菌(納豆菌と推測しているが、詳細は不明)が数を増やしたために酵母が生き残れなくなり、パンが作れなくなったと思われる。
 その強力な菌を押さえるためには、酵母を増やす方法では間に合わず、容器を煮沸消毒することで謎の菌を殺す、という手段をとらなければならなかった。


 そんなことが今回の顛末でわかったことなのだけれど、今まさに自家製酵母でパンを作ってみようと悪戦苦闘(?)している皆様。
 もしも、元種がなかなか上手くできない・・・と悩んでいるのであれば、元種を作る容器を一度煮沸消毒してみましょう。(ということもあり、元種を作る容器は煮沸消毒のできる耐熱ガラス製のものを用いることをおすすめします)
 それからもう一つ、基本中の基本として付け加えておくが、果物やレーズンなどで酵母を起こす(酵母液を作る)時には、酵母が十分に増えるまで発酵させること。
 元種を作る(酵母液と小麦粉を混ぜて、発酵した小麦粉=パンの元種を作る)時に酵母液を使うのは、小麦粉と水だけで発酵させるよりも酵母が圧倒的な数で生息している酵母液を使った方が雑菌に負けることなく確実に酵母を増やせるから。
 圧倒的な数にする、ということが肝心なので、瓶の蓋を取った時にあふれんばかりにガスが吹き出るようになる、発酵のピークになるまで待つことが大切です。
 さらに、一次発酵に関しても、一次発酵を十分に行うことで二次発酵が迅速に進んで美味しいパンになります。
 一次発酵が不十分なまま二次発酵に移ってしまうと未熟な生地のまま焼くことになり、美味しいパンにはならないので、一次発酵に時間をかけることに留意しましょう。
 ちなみに、酵母が快適に小麦粉の中で生息しているパンの元種が作れていて、適正温度(パン生地が26~28度くらい)を保てていれば、一次発酵は約4時間で終了します。
 寒い時期や乳製品や卵を加えたリッチな生地はもう少し時間がかかることもありますが、4時間半以上かかる時には元種が上手く作れていない可能性があります。(あるいは、温め方が足りない場合もあり)
 

 小麦粉の中に酵母を住まわせ、酵母の発酵によってパン生地を膨らませる。
 そのために、酵母が生きやすい環境を作ってあげる。
 そんなイメージを持ちながら自家製酵母のパンを作ってみてくださいね。