雨上がりの朝の物干し竿にしずくが並んで、光を放っていた。
日常の何気ない場所にも、美しいものが宿っている。
物干し竿の上には、たまたま落ちたモミジが一葉。冬のはかなげな日差しに透けて、葉脈がきれいだ。
先週来てくださったお客さまの中に、
80歳なので なかなか来られなくて・・・
とおっしゃる方がいて、
お近くに 住んでいるんですか?
と聞いてみたら、真岡中学校の方にお住まいだとか。
なかなか来られないので 顔を覚えてもらえていないかもしれない
と言われたのだが、わたくし、どうも人の顔を覚えるのが苦手で、何度も会ってようやく…か、印象的な話をしたことがきっかけとなって記憶に残る・・・ということがないと、なかなか覚えられないのだ。
(なので、何度も来ているのに初めて会ったような会話になっている方もいるかもしれません。ここでお詫び申し上げます。ごめんなさい。)
その80歳の男性のお客さま、話しているうちにそう言えば何度か来てくれている、ということを思い出したのだけれど、今日は何気なく
何か 趣味とか なさっているんですか?
と聞いてみたら、
趣味っていうのも う〜ん・・・
ないですねぇ
仕事と趣味が 一緒だったから・・・
と言うので、
お仕事は 何をなさっていたんですか?
とお聞きしたところ、
仕事は 音楽です
音楽・・・
演奏ですか?
と、興味が湧いてさらに聞いてみたら、
楽団にいました
なんと!そんな人に初めて会ったので(!)、俄然聞き出したい気持ちがこみ上げてきて質問攻めにしたところ(笑)、若いころは東京に住んで、Y交響楽団でオーボエを吹いていたのだとか。その頃は、演奏旅行をすることもあったらしく、
演奏旅行は 楽しかったですねぇ
というので、
こう言っていいかわかりませんが
ジプシーにあこがれたことがあって・・・
と私が返したら、
ジプシーほど 過酷じゃないけどね(笑)
いや・・・
旅をしながら 仕事をしながら 日銭を稼いで 暮らす
というのに あこがれていました
ああ〜
うん あこがれるね
と(^ ^)
定年で楽団を退職されたあとは実家のある真岡に戻り、両親を無事に看取って今に至っていると教えてくれたあと、その方は
幸せな人生でした
とさりげなくおっしゃった。
退職から20年、今は奥様と2人暮らしらしい。いつも一人でパンを買いに来るのだが、かぼちゃパンなどのおやつパンを、どれも2個ずつ取ってかごに入れているのがなんとも微笑ましいのだ。そして、
また来ます
80過ぎても
ここまで歩けるようには しておきたいからね
と、笑顔を見せた。
そうですね〜
歩くのはいちばんいいって言いますよね
お待ちしています!
お客さまが帰った後の店の中には、何となくいい空気が残っていた。
幸せな人生でした
その方がさりげなくおっしゃったその一言が、私の心の中にしみじみと広がった。