風の通りすぎる場所@あおいベーカリー

自家製酵母のパン工房「風の通りすぎる場所@あおいベーカリー」に関するお知らせと、何気ない日常を綴っています。

砂の記憶 その2

 ツーリングで砂浜の砂を集めていたのは、20代後半になってバイクに乗り始めてからのことなのだが、それ以前に、砂コレクションの本当のきっかけとなっている出来事がある。
 私が大学を卒業した記念に、家族旅行をした、福島県いわき市の塩屋崎。
 なぜ塩屋崎を選んだかというと、あまりにも遠い昔のことで記憶があいまい、かつ、未確認情報なのだが、母が、塩屋崎の砂は細かくて、砂時計の砂にも使えるらしいという話をテレビで見たとかで、真岡からも比較的近いし行ってみたい、と言ったからだったように思う。天気のよい3月の海岸には、ひんやりとした風と波の音と、そして美しい砂浜が広がっていて、とても気持ちがよかったことをよく覚えている。
 その時に母が、旅の記念にと一握りの砂を持ち帰り、ありあわせの小さなガラス瓶に詰めて、ずっと大切に飾っていた。



 手で削って作ったらしいコルクの栓と赤いリボンが、いかにも母の美意識らしく、母にとっても、塩屋崎に行ったことは大切な思い出だったんだろうなと、いまさらながら思うのだ。
 その瓶は、実家に戻った3年前にも見つけていて、私も思い出とともに大切にしていた。あらためて見てみると、その塩屋崎の砂は本当に細かくて美しい砂であることに間違いはない。ちょっと調べてみると、塩屋崎近くには、鳴き砂の浜もあるらしい。
 いや、あるらしい…と言った方がいいのか、あったらしい…と言った方がいいのか・・・。
 東日本大震災の時にいちばんの被害を受けたのは、あの辺の海岸だ。
 美しかった砂浜は、今はどうなっているのだろう?

 震災のあった日、私は福島県に住んでいた。そして、震災のあった2011年の暮れに、13年半住んだ会津から実家に、30数年ぶりに戻ってきた。
 塩屋崎の砂が入ったガラス瓶を、今でも大切にとっておいていること。ふと思い出して、パン工房にこの砂を飾ったこと。
 私の中で、フクシマが風化することはないだろう。
 もうすぐあの日から、4年になる。