夕方、工房の厨房で、酵母のお世話をしていたら(パンを作るための自家製酵母は、毎日面倒を見てあげなければいけないのです)、店のガラス戸につけたドアベルが、風があるわけでもないのにカランカランと妙に鳴り続けているので振り返ってみたら、ガラスの向こうに小学生の女の子が。ちょうど背丈の位置にある透き通ったガラスのところから、こちらを覗いている。
掛かっていた鍵を外して、「こんにちは」とドアを開けたら、
こんにちは
ここ パン屋さんですか?
と、姉妹らしき2人のうちのお姉ちゃんらしき女の子が尋ねてきた。
はい。
14日から始める予定です。
と答えると、
あ、わかりました。
と、お行儀のよい返事をしてくれたので、
道 悪かったでしょ
と気遣うと、
あ 大丈夫です
と、大人っぽい受け答え。昨日の雪がまだ融けきらず、家の入口の土木整備が未だ進まないままのエントランスは、滑りやすかったりぬかるんだりで足元が悪いのだ。
それに、パン工房のあるところまでは母屋の脇を通らなければならず、知らない家の中まで入ってくるにはちょっぴり勇気がいる。お母さんか誰かといっしょに通りがかって、「パン屋さんがあるのかな?行ってきてみてごらん」とでも言われたのだろうか?
そのまま後ろを向いて帰っていく女の子2人に、
ごめんね
ありがとう
気をつけてね
と、声をかけた。
パン屋の看板でも出しておかなかったら、こんなことはなかっただろう。それに、ちょうど工房にいた時でよかった。
雪が降りやんだ翌日の出来事。
私にとってはなんだか少し、おとぎ話のようだった。