今日のお昼過ぎ、子供連れのお客様が帰ろうとしたところで、工房の入口のドアのあたりに虫がいるのが見えた。
黒っぽくてやや細長く、触角がしっかりとしていて固そうな甲虫と見てとれたのだが、お客さまがドアを開けるとブ〜ンと飛んでなのかコロンと転がってなのかはわからないが、その虫が床の上に落ちた。なのに意外にもお母さんも子供たちも、足元にいる虫には全然気がつかないらしく、何も言わずにごく普通にドアを開けて外に出ようとしていたので、虫が踏まれないだろうなとちょっとひやひやしながら見ていたところ、お母さんと子供二人の足が見えなくなった後にまた虫が飛んでドア枠のところに止まった。
よかった〜
踏みつぶされなかった・・・
カミキリムシみたいだけど
何だろう?
ドアを閉める時に潰されたりしないように、外に逃がしてあげようと、厨房からショップスペースの方へ出てドア枠にしがみついている虫を見に行くと、子供連れのお客さまが出てくるまで外で待っていたらしい男性のお客さまが一人。虫には気がついたのに、お客さまが外で待っていたことには全然気づいていなかった自分にびっくり(?)しつつ、
あ
こんにちは・・・
すみません
カミキリムシがいたようなので・・・
とことわりながらあらためて虫のほうに目をやり、確かめると、なんとそれはルリボシカミキリだった。
私と一緒に虫の方へ眼を向けたお客さまも、
ああ ほんとだ
カミキリムシ・・・
これ ルリボシカミキリ
ですよね?
そうですね
ルリボシカミキリですね
珍しい!
珍しいですよね・・・
すると、お客さま、
これ もらってもいいですか?
虫 大好きなんですよ
!?
あ そうなんですか!?
どうぞ
そう言うとお客さまは、カバンから取り出したポリ袋か何かにカミキリムシをそっとつかんで入れたのだった。男性とは言え、虫が嫌いなお客さまだったらどうしようと内心心配していたのが意外な展開になり、さらにまた、
虫 大好きなんですよね〜
というので、ちょっと疑問に思ったことを聞いてみた。
ルリボシカミキリって
もう少し青みが強くなかったでしたっけ?
そうですか?
ルリボシカミキリ 初めて見たので
ああ・・・
ここで見るのは 初めてですね
今まで ここで見たことは 一度もない・・・
珍しいですよね
初めて見ました
子どもの頃にルリボシカミキリを図鑑で見て、本当にこんなきれいな虫がいるのだろうか?一度本物を見てみたいと思いつつも、実家にいる頃にそれにお目にかかれたことは一度もなかった。なので、この辺にはいないものだと思っていた。
それが、会津で暮らしていた時に桐を植えてある畑で初めて出会い、あまりの美しさに目を奪われた。胴体の色と模様はもちろん、触角にまで黒い模様がついていて(しかも、立体的なドット模様!)、神様はなんて美しい造形を作り出すのだろうと思った。自然のたくさん残る地域だったので、こんなところにはたくさんいるのだろうなと想像したのに、13年半住んだ中で出会えたのは結局その時一度きりだった。
その、宝石のように美しい虫にまた出会えることになるとは。それも、自分の住んでいる家の庭先で。
実はこの庭には、ナナフシもいる。とはいえ、これもひんぱんに出会えるわけではない。やはり子供の頃に、こんな妙な形の虫を見てみたいと思ったものの一度も見たことがなかったのだが、社会人になって十何年か後に実家に帰省した折に、母が、
この前 庭で珍しいものを見たよ
ナナフシがいた!
という目撃情報を話してくれたのが最初だった。母にとっても、庭でナナフシを見たのが初めてだったので(ナナフシ自体を見るのも初めてだったらしく)、感動して教えてくれたのだった。
それから何年か後に帰省した時に、たまたまナナフシが現れて、初めてその奇妙な形をした虫を見た。こんな虫、本当にいるんだ!図鑑だけでは信じられないような虫を目の前に見て、やっぱり私も感動した。
軒の下にはアリジゴクの巣穴があって、子供の頃には夏の夜に、ウスバカゲロウがよく、ひらひらと家の中に飛んできたりした。
虫以外でも、今、工房の裏口の傍らに葉っぱが伸びてきた草がオトギリソウではないだろうか?と気になっている。今まで庭にオトギリソウが生えているのを見たことなどなかったので、一体どこから種がきたのだろう?花が咲くまでは正体は確定できないけれど、オトギリソウ以外にもこの庭には、ドクダミやカキドオシやクサノオウやゲンノショウコといった薬草も生えている。
子供のころにいちばん好きな科目がずっと理科(生物)だったのも、この庭のある家で育ったからなのかもしれない。
そんな、住み慣れた実家で今日、ルリボシカミキリを見て思った。
私にとってこの場所は、ミラクルワールド!