昨日、水戸からいらしたという2人組のお客さま。
かわいいお店ですね
と言っていただいたのを皮切りに、
物語に出てくるみたい・・・
何か イメージしたものがあるんですか?
と聞かれたので、
特に 見本にしたものはないんですけど
散歩の途中に
あれ?こんなところにパン屋さん・・・
って 看板を見つけて 中に入って来てみたら
ジブリの映画に出てくるようなパン屋さんがあった!
っていう風にしたかったんです
と答えたら、
ああ〜!
わかります!
ジブリの映画に出てくるみたい!!
と、イメージが沸いた様子。
パン屋と向かい合って建っている建物は築55年の私の実家で、今は猫3匹とここに住んでいるということや、パン屋の名前の由来などまで話すと、
仕事していても
ここなら 楽しそうですね
そうですね〜
仕事は大変ですけど
楽しいです!
すると、
なんだか 映画のセットみたい
映画は 演じているからわざとらしいけど
ここは 本当の物語なんですよね
そう言われて、
時々 自分が
映画のワンシーンを演じているみたいな気持ちになること
ありますよ
と、私。
そうなのだ。この家に住んでいて自分がしていることを、ふと俯瞰してみることがあり、そんな時に
こんなシーン
映画の場面にありそうな・・・
と思うことが、たまにあったりする。
今まで、「ジブリの映画に出てくるみたいなパン屋さんですね」と言われたことは何度かあるのだが、「映画のセットみたい」と言われたことはなかった。昨日のお客さまは、どんなことを感じてくれたのだろうか。
実は昨日は、母の命日だった。
6年前に母が亡くなり、ここに住む者がいなくなって、2年半ほどの間、この家は時間を止めていた。
時々私が家の様子を見に会津から戻ってきては、帰省して羽を伸ばすみたいに日常から離れた時間を過ごしたりしていたのだけれど、その時にはすでに「おかえり」といって迎えてくれる人はいなくなり、会津に帰る時にも、私自身がこの家の鍵を全部閉めて、カーテンを引き、しばしの時を止めるように家を出るのだった。
それが、4年ほど前に私がここに戻ることに決めて、この家は再び時を刻み始めることになる。
会津から実家へと引越しが終わってからも、しばらく家の中や物置の片づけをしていたのだが、その時に見つけた、両親が片付けてしまったままになっていた子供の頃のおもちゃや大切にしていた本や、今となってはどうでもよいものとか、あるいは、父が撮ってくれた写真が丁寧に貼られているアルバムなどがいろいろと出てきて、まるで、生まれた頃までタイムスリップしたみたいな気分になった。
今まで「帰る場所」だったところに戻り、そこに住むようになったので、私にとっての「帰る場所」はどこにもなくなってしまったはずなのだけれど、誰かが待ってくれているそんな場所がなくても、今の自分の心がざわめかなくなったのは、生まれ育ったこの家に住んでいるからだろう。
ちなみになぜか、うちの両親と私と妹と、子供は18になったらこの家を出て親とは離れて暮らすものだ、という暗黙の了解のようなものがあり、そんなこと一度も言われたことがあるわけではないのに、妹も私も18歳になった時に実家を出て、一人暮らしを始めた。
それから数十年・・・、何度かの引越しののち戻ってきたこの家は、建て替えることも増築することも改修することもなかったので、私たちが暮らしたままの、昭和のにおいがそこここに残っている。
そんな長い時間を経たこの場所で、私の物語は再び動き出している。お客さまという、たくさんの登場人物を交えて。