仕込みを終えて外に出ると、真っ暗だった。
このところずっと、仕込みが終わるのが午前5時を過ぎてしまうことが多く、その時刻だと夜明けが近くて薄明るくなってしまっているのだが、今日は1時間早く終わって4時過ぎに外に出たので、町はまだ眠りの中。仕込を始めた12時過ぎに見えていた二十五夜の月も西の空に沈んで月明かりも消え、空には星だけがキラキラと輝いていた。
うわ〜
きれい・・・
4時だと まだこんなに星が見えるんだなぁ
あそこで 輝いているのは
何だろう?
隣家の庭の大きなカエデの木のすきまできらきらと輝くものが見えているのは、星なのか?
木陰を外せる位置まで歩くと、南の空にオリオン座が。そして、一段と輝いていたのはシリウスだった。ペテルギウス、プロキオンと繋げて冬の大三角形。オリオン座の三ツ星の下の大星雲まで見える。
母屋の方で洗うつもりで持ったこね機のボールを抱えたまましばし空を見上げていたが、思わずボールを庭に置かれたベンチの上に置き、手にした懐中電灯の明かりも消して、あらためて夜空を見上げた。
街中なのに、我が家の庭の上にプラネタリウムがあるみたいに、今夜は星がよく見えた。夜の微かなノイズを伴って、静寂が漂っている。子供の頃、同じようにこの庭で父と見上げた夜空を思い出した。
天頂のあたりにいくつか赤っぽい星が見えているけれど、あれは何だろう?
そう言えば、今、金星と木星が近いところに見えるんだったよな・・・。
しばらく庭の上の星を見上げたあと、ボールを持って家に入って台所にそれを置くと、勝手口からまた外に出た。そして、東の空を見てみたら、
うわ〜
すごい!
なんて きれいなんだ!!
東の空に金星と木星が重なるようにして輝いている。
ことさら金星は、輝きが増しているようにも見えた。眼鏡のせいなのか、金星は光が本当に星形なって見えた。
今年は金星と木星が夏の頃から近い位置で輝いているということは知っていたのだけれど、ずっとそれを見たいと思っていたものの、見られる時刻に起きていなかったり仕込中だったり、あるいはいい時刻に仕込が終わって外に出てみたら空には雲がかかっていたり、9月が雨続きだったということもあって、見る機会を逸していたのだ。それを、ようやく見ることができた。
きれいだなぁ・・・
うっとりするくらいの星の輝き。星占いでは吉星ということになっている金星と木星が仲良く並んで光っているこの光景を見たら、なんだかいいことがありそうな気がしてきた。
眠っている間に家の外ではこんな美しい光が降り注いでいるということを知らずに、見ないでいることが、何だかもったいないような気がした。
ちょっと外に出れば見られるのに
なんで いつも 家の中にいて
この星空を見ようとしないのだろう・・・
見ようとしなければ見えない光。暗闇がなければ目にできないもの。
気づかずにいるだけで、星の光はいつだって地上に降り注いでいるのだ。